第3回 中等日本語教育授業教案コンテスト結果発表

たくさんのご応募ありがとうございました! 審査の結果、以下の先生方が各賞に選ばれました。おめでとうございます!!

主催        : 国際交流基金北京日本文化センター

応募資格 :2017年から現在までに国際交流基金が実施した研修会(主催または共催)に参加されたことがある

     中等教育機関の中国人日本語教師

応募期間 :2021年12月1日(水)~12月19日(日)

査員    : 国際交流基金北京日本文化センター 日本語教育専門家

応募総数 : 43件

 

★「教案」をクリックすると、入賞者の教案が見られます。

 

◆特等賞(1名) 

上海市甘泉外国語中学 高懐氷先生 教案

 

受賞者挨拶

このたび、このような素晴らしい賞を頂いたことに、受賞者を代表いたしまして、北京日本文化センターをはじめ、お世話になった方々には心より御礼申し上げます。教師という人間は、限られた授業時間の中に、どのような目標を立て、どのように進めていき、そして、最終的にはどういった結果が出てくるかといったことを、日々、悩みながら考えています。それは、教師の本職であり、個人的成長の過程とも言えます。その意味で、今回の受賞は、私個人にとって、これまでの成長を振り返る機会となりました。また同時に、ともにその道を歩んできた甘泉外国語中学の同僚のみなさんにお礼を言わなければなりません。「生涯学習」は教師全員の共通した目標です。これからも、新たな目標を目指し、自己研鑽を積み、生徒諸君とともに成長していきたいと思っています。引き続き、皆様にはご指導のほどよろしくお願い申し上げます。本当にありがとうございました。

 

講評

グループで遠足の規則を考え、そのあとグループ間で批評しあうというアイディアは、日本語力だけでなく思考力、協働力など生徒の能力育成が期待できるので、とてもいい教案だと思いました。生徒が話し合う時の使用言語が明記されていませんでしたが、レベルに応じて日本語でも中国語でも、日本語での思考につながる内容になっていると思います。文型シラバスのカリキュラムでも、機能シラバス、トピックシラバスのカリキュラムでも実施できるアイディアだというところも良かったと思います。(北京日本文化センター 池津丈司)

 

禁止や許可を表す表現は、「做/不做」と「行/不行」の二つの軸から、「~てもいい」「~てはいけない」「~なくてもいい」「~なければならない」の4種類の表現が可能となりますが、この教案ではこれらの学習項目を生徒たちに身近な遠足の話題に落とし込み、過去学校で現実に起きた遠足事故の事例なども紹介しながら各グループに分かれて【自分たちの遠足ルール】として考えさせている点が高く評価できます。付箋を利用してアイデアを促すブレーンストーミングをおこなわせたり、挙がってきたアイデアの中から採用したいと思う遠足ルールを選ばせることで活動の中に評価も盛り込むなど生徒への指示も適切で、先生が日頃からこのようなアクティブな実践活動を多く行っていることが推察されて進行も非常にスムーズだと感じました。(北京日本文化センター 田邉 知成)

 

規則にしたくない理由をきちんと発表できる機会が与えられているので、ただ厳しく規則を作ればそれでいいということにならず、学習者が自分で考えることができます。厳しくて真面目だったり、自由が好きで「ゆるい」考え方だったりする多様な考え方の学習者が「これはさすがにあかんわな」「いや、それぐらい、ええやん!」「じゃあ、この部分、こう変えたらええんちゃう」といったように意見をお互いに戦わせながら、班で合意を模索していくやりとりを想像しながら読みました。また、授業中の活動の個別の目的や注意点を書く欄の記述が充実しており、教案の様式が活用されていることも、この教案の特長です。教案の冒頭部に記載されている学習目標と目的について、授業のどの部分で扱うのかが明確になっているので、授業のどの部分がうまくいったか、あるいは改善できるかを教師が振り返ることが容易になっています。授業の工夫部分の「(教師が)必要な足場を架けてあげる」の記述がありますが、教師は、主に、スキーマの活性化や、言語知識の復習、まとめ等の、活動がつつがなく進行させるための支援の役割を担っていて、学習者中心の授業につながる工夫になっています。最後に、この授業の改善について考えてみると、「後作業」と「まとめ」の部分で、学習者に、班での話し合いの過程でどのように考え方が変わったか、どういう気づきが得られたか発表させて、協働学習の目標を意識させることや、宿題として、授業で扱った内容の復習として「日本研修旅行の規則」について考える作文を課して、授業内容を成果物にでき、学習者の復習による気づきを促したり、教師の授業へのフィードバック資料として活用したりするだけでなく、教育実践研究に発展させることもできるでしょう。(北京日本文化センター 大脇元)

                       

 

◆一等賞(2名)

北京市月壇中学 黄敏先生 教案 

教科書に寄り添い、素材の良さを生かした授業案だと思いました。「小説を読んで感想を述べる」というのが教科書の冒頭部の学習目標ですが、前作業で場面を意識させ、ジグソーディングを生かした内容理解のための本作業と、文学作品を鑑賞する後作業の3段階の構成になっています。物語の構成や内容を説明する本作業の話し合いの活動の過程で学習者からは感想や疑問がたくさん出てくるはずで、最後の後作業でそうした感想や疑問が整理され、きちんと一連の活動としてつながってきています。ジグソーリーディングの活動で、物語の結末に意外性がある場合、これまでの流れに基づいて結末を予想させる活動をまとめで取り入れると、結末についての感想も言いやすく、スムーズな後作業につながるでしょう。また、最後の後作業でシャドーイングが出ていますが、自然な速さで正確にというより、物語の好きな部分を考えて、感情をこめて朗読したり、感想を述べあったりする活動を学習者相互で行うと、前の内容理解を中心とするジグソーリーディングを中心とした本作業の活動とのつながりが良くできるかもしれません。そして、学習目標については、学習項目に対応した部分、日本語を使った話し合い活動の具体的な目標や教師の支援の方法が明記されていると、どれぐらい授業目標が達成できたか、教師が振り返るときに有効だと思います。(北京日本文化センター 大脇元)

 

上海市甘泉外国語中学 沈洋先生 教案 

授業の流れもわかりやすく、生徒が自分のすべきことを理解し、授業の目標が達成できるのではないかと思いました。日本人留学生をリソースとして利用するというのはどこの教育現場でもできることではありませんが、とても面白いアイディアだと思います。
ぜいたくを言えば、せっかく日本人留学生がいるのだから、先生や教科書からだけでなく、その留学生たちの発話からも自然な表現を学べるような工夫もあればよかったかなという気もしました。(北京日本文化センター 池津丈司

 

◆二等賞(4名)

杭州英特外国語学校 劉佳瑋先生 教案

 当該授業コマの到達目標が明確で、各種活動を通じて中日の文化差や社会言語的なところにも理解が及ぶよう配慮がなされていました。事前課題として日本人の時間感覚について生徒たちが調べたものを動画にまとめさせるなど、反転授業的な要素を盛り込んでいるのも面白いなと思います。ただ生徒が若いだけに文化的なものを扱う場合には生徒たちがステレオタイプ的な理解のみに偏ってしまわないように細心の注意が必要でしょう。教科書を使ってインプットを与える際、文字・イラストや音声情報から絶えず生徒たちに推測を促しており、生徒たちが主体的に考え理解するための支援が十分できる授業計画となっています。ロールプレイは生徒たちが慣れてくればスムーズにおこなえるようになります。今回は2種類でしたが、多様なロールカードを用意しても面白いでしょう。(北京日本文化センター 田邉 知成)

 

上海外国語大学閔行外国語中学 王聖娟先生 教案

授業が段階的に構成されていること、準備物や教師の指示、発問が明確なこと等、教案の授業内容部分の読みやすさは応募教案の中でも随一です。40分でてきぱきと多様な活動をとりいれるには緻密な準備が必要ですが、授業内容部分にそのことがきちんと反映されています。また、「工夫した点」のところにあるように、学習者に期待したいこととして、自分たちで評価基準を考えさせる学習者中心のアイデアが盛り込まれています。教師に指示されたことだけでなく、少し工夫してみたい、面白いことを言いたい、やってみたいと考える学習者の意欲をコメントや相互評価にうまく誘導できるようになっていると思いました。そして、工夫したことについて振り返りを促す機会もきちんと用意されています。文法については、日本語では恩恵表現が会話でよく使われますが、「させていただきます」のように学習者から見るとちょっと変な感じがするかもしれない表現が、授業活動のなかで場面にあった定型表現として自然に導入されています。教案について工夫できることがあるとすれば、授業が産出中心となるので、到達目標も具体的で複数の表現となっていますが、学習項目と到達目標をもう少し関連付けて整理できるはずです。また、学生自身で評価できることのような、工夫に記載されている表現も授業目標に記載するとよいでしょう。(北京日本文化センター 大脇元)

 

大同市外国語学校 王秀栄先生 教案

事前にドラマやアニメの作品から授受動詞の出てくる場面を収集させ、現実の使用事例から日本人がどのような感覚で授受表現を用いているのかを生徒に考えさせるという点が非常にユニークでした。その上で授受表現(特に恩恵授受の表現)が多く使用される日本の昔話「浦島太郎」を題材にピアリーディングをおこなっています。ピアリーディングでは物語の内容理解に焦点を当てて活動をしますが、ホームグループでのアウトプットを通じて生徒たちが授受表現への理解を高めていけるように計画されています。物語には「亀を売っておくれよ」や「亀を放しておやり」、「海の中へ逃がしてやりました」など、難しい表現も出てきますので、事前に注釈をおこなうか、または原文をリライト(教師による書き直し)しておくとよいかもしれません。(北京日本文化センター 田邉 知成)

 

蘇州市第三中学 王瑩先生 教案

この教案の特色は、よく知っている中国の地元の情報のごみ分別の知識から始めて、日本との違いに注目させ、最後に最後の会話練習へつなげていることからわかるように、異文化理解と言語の学習を一体化させていること、そして中でも異文化理解学習が授業で大きな比重を占めているところです。能力を育成するために、違いについて整理する活動だけでなく、実際に知識を使って問題を解決する活動を組み合わせているのは効果的です。日本と中国両方のことを知っていることが、「困っている日本人に説明してあげる」課題では役に立ちます。また、工夫した点のところに「生徒一人一人の日本語能力に合わせ、簡単な質問やPPT作成、発表、ロールプレイといった難易度の違うタスクを用意しました」とありますが、こちらも大切なポイントです。学習者が協力して班活動をするとき、それぞれが活躍できる機会があることが学習者の学習の動機付けにとって非常に重要だからです。日本語を使った活動が主になる後半以降の部分では、教師が学習者がスムーズにロールプレイを進めることができるようにどのような準備や、ロールプレイについてどんなフィードバックをするか具体的な教師の役割を教案に書いておくとなお分かりやすいでしょう。また、学習者の動機付けのために競争を取り入れることも有効ですが、ロールプレイの完成度の評価以外に、授業どのような気づきがあったか等、授業全体を振り返る活動も取り入れてみるのもよいと思います。(北京日本文化センター 大脇元)

 

 

◆奨励賞 (1名)

恩施州清江外国語学校 段雪芬先生 教案

この教案には、宿題を含めると、読解の授業に必要な次の3つの要素が含まれています。
① 書いてあることを理解する読解力を身につける。
② 書かれている内容を知識として自分の経験や知識と結びつける。
③ その話題について書く(話す)ときに便利な語彙や表現を学んで使う。
とても惜しいのは、教材の文章に書かれている知識だけでは常識的すぎて、議論が生まれにくいということです。こういう場合は、教科書で語彙や表現を学んだあとの宿題で、中国語でもいいですから生徒にインターネットなどで、ここに書かれているのとは違った健康の秘訣を探させて、日本語でレポートさせるなど工夫をすると楽しい授業になるでしょう。(北京日本文化センター 池津丈司)

 

 

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