「異文化理解のための中等日本語教育研修会」実施報告
中国の初中等教育では、第二外国語(以下、二外)として日本語を学ぶ児童・生徒が増えています。楽しみながら日本語を学び、同時に日本語を通じて日本や外国の文化に触れる「異文化理解」を主な目的としています。また、一言に「二外」と言っても、授業の一環として学ぶものから、放課後に行われるクラブ活動まで、実施形態や内容も様々です。
今回、北京日本文化センターでは、こうした二外で日本語を教える教師を主な対象として、「異文化理解のための中等日本語教育研修会」を実施しました。
◆概要
日 時 :2016年7月23日(土) 8:30~17:30
会 場 :北京日本文化センター多目的ホール
主 催 :国際交流基金北京日本文化センター
目 的 :
①中等二外日本語教育の推進
②二外授業の質的向上
③教師間のネットワーク形成
参加者 :28名(25機関)
参加条件:初等・中等教育機関所属の日本語教師であること。二外を実施しているかどうかは問わない。
◆スケジュール
8:30~9:00 | 開会式 記念撮影 | 張玉潔 |
9:00~10:00 | 講義「異文化理解のための中等日本語教育」 | 唐磊
(人民教育出版社) |
10:10~10:25 | 北京日本文化センターの中等二外に関する取り組み | 清水美帆 |
10:25~10:50 | 長春日章学園高中における実践紹介 | 鄭紅
(長春日章学園高中) |
11:00~12:00 | 学校種別状況報告と意見交換会 | 平田好 |
12:00~13:30 | 休憩・図書館見学 | |
13:30~15:00 | ワークショップ
「異文化理解養成のための授業デザイン」 前半 授業体験 |
清水美帆・小川佳子 |
15:10~16:40 | 後半 教案作成 | |
16:40~17:00 | 国際交流基金主催の日本語教師研修紹介 | 清水美帆 |
17:10~17:30 | 修了式 | 張玉潔 |
17:30~ | 懇親会 |
◆研修プログラム
(1)講義「異文化理解のための中等日本語教育」(唐磊先生/人民教育出版社)
改訂が進められている中等日本語教育シラバス『課程標準』の内容に触れながら、①二外学習の利点、②なぜ二外日本語を学ぶか、③二外としての日本語は何を学ぶか、④どのように教えるのが効果的か、以上の4点からお話いただきました。
(2)北京日本文化センターの中等二外に関する取り組み(清水美帆)
北京日本文化センターでは、二外日本語教育の推進を目的とし、①教材の充実、②シラバスの整備、③教師支援の3点を優先策に挙げ、以下の様々な取り組みを行ってきました。
●『艾琳学日語』(北京日本文化センター主編)の出版
DVD付き日本語学習教材『エリンが挑戦!にほんごできます。』(国際交流基金)の中国版として『艾琳学日語』を出版しました。この教材では、以下の2つを基本理念としています。
①“Can-do”目標を中心とする日本語学習
(実際に日本語を運用して様々な活動が「できる」ようになること)
②異文化理解の養成
『艾琳学日語』(北京日本文化センター主編、人民教育出版社より出版)
●各地で『エリン研修』の実施
『艾琳学日語』を使ってどのように異文化理解の授業を行うか、各地で研修を実施しています。
●「東北三省中等二外推進モデル校支援プロジェクト」
長春日章学園高校(吉林省長春市)を二外のモデル校とし、2015年より授業を実施しています。
●二外調査の実施
中等二外の実態を把握するための調査を実施しています。
(3)長春日章学園高中における実践紹介(鄭紅先生/長春日章学園高校)
同校では週1回(40分)、高校1年生248名(6クラス)を対象に、『艾琳学日語』を使い、1課あたり2回のペースで教えています。
(4)学校種別状況報告と意見交換(平田好)
学校種別ごとに代表者4名より各校の二外状況を報告いただき、その後全体での意見交換を行いました。
【外語学校】魏譞先生(北京市北外附属外国語学校)
【普通校】賈俊格先生(山東省単県五中)
【小学校】孫旭先生(山東東営経済開発区東凱旋小学)
【職業学校】趙凱芳先生(上海市航空服務学校)
全体意見交換
(5)ワークショップ(小川佳子・清水美帆)
テーマ「異文化理解養成のための授業デザイン」
【前半】授業体験
実際に異文化理解を目的とする授業を行い、「異文化理解」とは何か考えました。
【後半】教案作成
グループごとに教案を作成し、発表と意見交換を行いました。
おわりに
「異文化理解」では、教師から日本文化に関する知識を「教える」だけでなく、生徒自身が文化の多様性に「気づく」ことが重要だと言われています。そのためには教師からどのような質問を投げかければいいでしょうか。どのような授業のしかけを作ればいいでしょうか。今回の研修では講義やワークショップを通してそれらについて考え、グループで授業をデザインすることができました。
また、全国より集まった28名の教師からの報告・意見交換により、二外日本語教育の現状と課題を共有し、改善策を考えることができました。教師の中には、一人で二外を担当し、悩みを相談する機会がないという方も少なくありませんでした。このネットワークが今後も生かされていくことを期待しながら、北京日本文化センターとしても引き続き二外日本語教育をどのように支援していけるかを考えていきたいと思います。